日本人の勝算
メルマガ、ロシア政治経済ジャーナルより転載
★日本人の勝算
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ロシア政治経済ジャーナルNo.2100
2019/12/20
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ベストセラー、
●日本人の勝算 ~ 大変革時代の生存戦略
を読みました。
著者のデービット・アトキンソンの経歴は、とてもユニー
クです。
1965年イギリス生まれ。
日本在住30年。
オックスフォード大学「日本学」専攻。
裏千家茶名「宗真」拝受。
1992年ゴールドマン・サックス入社。
金融調査室長として日本の不良債権の実態を暴くレポート
を発表し、注目を集める。
2006年に共同出資者となるが、マネーゲームを達観するに
至り2007年に退社。
2009年創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手掛け
る小西美術工藝社に入社、2011年同会長兼社長に就任。
2017年から日本政府観光局特別顧問を務める。>
日本在住30年というと、1989年ですね。
バブル絶頂と、その後の「暗黒の30年」を日本で見つづけ
てきた。
長年ゴールドマンサックスで勤務されたので、金融のプロ。
こんなデービッド・アトキンソンさんは、日本復活のため
に何が必要だと考えておられるのでしょうか?
▼日本の根本問題
アトキンソンさんが考える「日本の根本問題」は、「人口
減少」です。
彼は、国連のデータを基に、2016年と2060年の人口差を予
測しました。
24pに出てくる予測だと
アメリカの人口は2060年、2016年比で25%増えます。
カナダは、25.5%増加。
イギリスは、17.4%増えます。
フランスは、11.3%増える。
インドは、なんと31.8%の増加。
今度は、減少する方を見てみましょう。
中国は、9%の減少。
一人っ子政策の副作用が出てきます。
ドイツは、マイナス12.8%。
イタリアは、マイナス8.5%。
最近出生率が1を切ったといわれる韓国は、マイナス5.6%。
ロシアは、マイナス13.4%。
ロシアは、政策で出生率を1.16から1.75まで上げることに
成功したのですが、また下がるのでしょうか。
スペインは、マイナス7%。
日本は?
2060年の人口は、2016年比でどうなるのでしょうか?
なんとなく「減る」と思っているでしょうが。
何%減る???
答えを紙に書いてから、先に進んでください。
答えは・・・・・・・・・・・・・・・・。
マイナス32.1%!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
日本は、「人口減少率」で、ダントツ世界一です。
それで、親日のルトワックさんも、
日本が嫌いと思われるジム・ロジャーズさんも、
口をそろえて、
「少子化、人口減少が日本最大の問題だ!」
といいます。
最大の問題は、日本政府と政治家さんが全然気にしていな
いことでしょう。
自民党は、「アメリカ製憲法を少しいじって歴史に名を残
したい」などと考えている。
野党は、「桜の会」のことしか考えていないようです。
(ちなみに、アトキンソンの話は、「人口減少は、不可避
な流れ」という前提で進んでいきます。
ですが、私は、「移民に頼らずとも人口を増やす方法はあ
る」と考えています。
その方法を知りたい方は、
●日本の生き筋 家族大切主義が日本を救う
をご一読ください。)
▼労働者の質が高く、生産性が低い日本
この本の中で、アトキンソンさんは、人口減少に負けない
国づくりの方法を、いろいろと提示しています。
全部書くスペースはないですし、あまりにもネタバレしす
ぎになるのも問題でしょう。
そこで、私が「面白い」と思った点を、少しあげておきま
す。
アトキンソンさんは、「日本人の人材の質」が非常に高い
ことに注目しました。
World Economic Forum2016 のデータによると、OECD諸国
の「人材の質」ランキングで、
日本は世界4位です。
ちなみに、1位は私が08年から絶賛しつづけている国フィン
ランド。
2位はノルウェー、3位はスイスです。
ちなみにアメリカは24位、韓国は32位。
つまり、「日本人は優秀だ」と。
一方で、日本の労働生産性が、あまりにも低いことにも注
目しています。
世界銀行のデータ(2016年)によると、
日本の労働生産性は、世界29位!
ちなみに、1位はルクセンブルグ。
4位シンガポール、9位アメリカ、19位イタリア、25位スペ
イン。
「なぜ日本の人材の質は高いのに、労働生産性はこんなに
低いのだろう?」
という問題意識がでてきました。
▼最低賃金が異常に低い日本
さらに気がついたのは、日本の最低賃金が「低すぎる」と
いうこと。
189pに出ている表(最低賃金、購買力平価、米ドル)によ
ると、
日本の最低賃金は、6.5ドル。
これは、韓国の7.36ドルより低い。
台湾の8.75ドルよりも低い。
ちなみに、アメリカは8.5ドル、イギリスは9.38ドル、ド
イツは10.56ドル、フランスは11.03ドル です。
▼最低賃金を上げると、生産性が上がる
アトキンソンさんは、
「最低賃金を上げると、生産性も上がる」
というはっきりとした傾向があることを指摘されています。
<欧州を中心に、生産性を向上させる効果がもっとも期待
され、
実施されている経済政策は、継続的な最低賃金の引き上げ
です。
最低賃金と生産性の間に、強い相関性が認められるからで
す。>(168p)
彼は、成功例としてイギリスをあげています。
イギリスには1999年まで、「最低賃金」がありませんでし
た。
その後、継続的に最低賃金を引き上げた。
2000年2.78%。
2001年10.81%。
2002年2.44%。
2003年7.14%。
2004年7.78%。
2005年4.12%。
2006年5.94%。
2007年3.18%。
2008年3.8%。
2009年1.22%。
2010年2.24%。
2011年2.53%。
2012年1.81%。
2013年1.94%。
2014年3.01%。
2015年3.08%。
2016年7.46%。
2017年4.17%。
2018年4.4%
そして、ここ20年の最低賃金の平均引き上げ率は、年4.17
%!!!
本当に驚きました。
こんなことをしたら、「倒産が激増するのではないか?」
と普通は思いますよね?
私もそう思いました。
アトキンソンさんは、「最低賃金引き上げで生産性があが
る6つの理由」を記しています。
1、もっとも生産性の低い企業をターゲットにできる
考えてみると、「最低賃金を上げられて困る企業」は、現
在「最低賃金で労働者を雇っている会社」です。
労働者の立場からいえば、「安くこきつかう会社」という
ことでしょう。
こういう企業に賃上げを強制し、生産性を上げさせる効果
がある。
2、効果は上に波及する
3、消費への影響が大きい
今最低賃金で働いている人たちの所得が増えるので、その
増加分は、ほとんど消費に向かうでしょう。
4、雇用を増やすことも可能
5、労働組合の弱体化
6、労働生産性向上を強制できる
▼イギリスでの検証結果は?
年平均4%以上の最低賃金引き上げを20年にわたってつづ
けたイギリス。
どういう結果になったのでしょうか?
倒産と失業者が激増したのでしょうか?
アトキンソンさんは、「その後のイギリス」について書い
ています。
1、失業への影響はなかった
イギリスの最低賃金は、1999年の3.6ポンドから2018年
の7.83ポンドまで2.2倍引き上げられた。
2018年の失業率は、4%。
これは。1975年以降でもっとも低い数字。
つまり、「最低賃金を上げると失業が増える」ことはなか
った。
2、サービス業がより影響を受けた
サービス業では、失業が増えず、生産性は1998年から2000
年の間に11%向上した。
3、生産性が向上した
4、生産性の高い企業ほど雇用を増やした
別の場所で、アトキンソンさんは、最低賃金引上げの重要
な効果について触れています。
最低賃金引き上げで、
「格差が縮小した」
<先進国では格差が拡大している国がほとんどですが、
イギリスはその中で格差が縮小している数少ない国の1つ
になっています。>(198p)
▼ていうか、韓国はダメだったよね?
最低賃金引上げというと、真っ先に思い浮かぶのは、文在
寅さんの顔でしょう?
アトキンソンさんも、「韓国の失敗例」について触れてい
ます。
<日本の最低賃金を引き上げるべきだと主張すると、
必ず反論が沸き上がります。
その反論の根拠として使われるのが、
韓国で2018年1月に実施された16%の引き上げです。
たしかに韓国の場合、失業者の増加など、引き上げによる
悪影響も確認できます。
しかし、韓国で悪影響が出たのは、引き上げ方に問題があ
ったからです。>(187~188p)
どんな問題があったのでしょうか?
<韓国で一気に16%も引き上げるのは、さすがに極端すぎ
ました。>(188p)
まさに「過ぎたるは及ばざるがごとし」ですね。
しかし、アトキンソンさんは、韓国の失敗例がすべてでは
ないとおっしゃいます。
<日本の人材評価は世界第4位なのに対し、
韓国は第32位です。
たしかに、韓国で日本より高い最低賃金を設定すると、
影響が出るのは避けられないでしょう。
しかし、人材評価第32位の国の例を、
都合よく世界第4位の国に当てはめて使うというのはいか
がなものかと思います。>(188p)
▼人口削減問題 = 財政問題
アトキンソンさんは、
・日本の根本問題は、人口減少問題だ
と指摘しました。
この問題を解決するためには、
・生産性を上げなければならない
生産性を上げるためには、
・最低賃金を継続的に上げる必要がある。
(ここでは、一つの方策だけ書いていますが、本の中には
さまざまな方法が記されています。)
ところで、「人口減少」は、なぜ問題なのでしょうか?
<これからは高齢化によって、無職の人が激増します。
彼らの年金を払う予算が入ります。
高齢者ですから、医療負担も大きく、その財源も必要です。
しかし、給料をもらっている世代は激減します。
となると、その税負担のために生産年齢人口の給料を増や
す必要があります。
所得増加を実現するには、生産性向上が必要条件です。
これは大きな政策転換となります。>(213p)
日本の財政が破綻しないためにはどれだけ生産性をあげな
ければならないのでしょうか?
<人口が減る分を補って、
経済を縮小させないためには、
どれだけ生産性を向上させなくてはいけないのかを計算す
ることができます。
なんと毎年1.29%ずつ、生産性を向上させる必要があるの
です。>(216p)
これって、どうなのでしょうか?
<世界ではこの50年間、毎年1.8%ずつ生産性が向上してき
ています。>(216p)
<これはかなり現実的だと思います。>(同上)
というわけで、今回はデービッド・アトキンソンの本をご
紹介させていただきました。
日本の根本問題は、人口減少。
それで財政が破綻する。
これを回避するためには、生産性を向上させなければなら
ない。
生産性を向上させるために、最低賃金を継続的に引き上げ
よとのことでした。
もちろん、ここで書いたことは、本のごくごく一部です。
日本在住30年。
日本を間違いなく愛している元ゴールドマン・サックス超
エリートの、「日本復活論」。
是非ご一読ください。
●日本人の勝算 ~ 大変革時代の生存戦略